福井映画サークル: 新・身も心も
『反撥』 Repulsion 65年
大野和士第41回サントリー音楽賞受賞記念コンサート、マーラー「交響曲第2番《復活》」
を聞きに行ってきました(8月29日、サントリーホール)。大野氏は2002年3月ベルギー
王立歌劇場音楽監督就任記念演奏会で《復活》を披露し、震災後初の帰国となる本演奏会
でも、当初の予定を変更して《復活》を演目に決めました。それ位思い入れが強い曲ですから
期待十分でしたが、それを遥かに上回る素晴らしい演奏会でした。
オペラ指揮者として培ってきたスケール大きな「劇的」表現――これを自然体で行える
大野氏の力量が存分に発揮されたマーラーで、ベートーヴェン「第9番」の延長線上に
ある勝利と歓喜の凱歌溢れる音楽が創造されていました。今まで色々な実演・CDで
接してきた《復活》の中でも、間違いなくベストの一つです。
もう一つの大きな収穫が、世田谷文学館で開催されている『和田誠展 書物と映画』。
故井上ひさし、谷川俊太郎、丸谷才一、村上春樹の4名の作家との仕事から、ポスター、
挿絵・絵本原画、装丁版下等を展示しています。そして、自ら監督した『麻雀放浪記』
『怪盗ルビイ』等のシナリオ、書き込み台本、絵コンテに加え、キネ旬連載の名エッセイ
「お楽しみはこれからだ」を始めとする映画が素材のイラストレーションも多数ありました。
会場に入ると、和田氏が新たに書き下ろした絵――ジョイス『ユリシーズ』を読むマリリン・
モンロー――がまずお出迎えしてくれ、そこから書物と映画を巡る和田誠ワールドに心行く
まで浸ることが出来ました。
映画は『未来へ生きる君たちへ』等4本観ましたが、中でもロマン・ポランスキー監督
『ゴーストライター』は上映30分前に完売の人気でびっくり(ヒューマントラストシネマ
有楽町1)。
ポランスキーというと『ローズマリーの赤ちゃん』『チャイナタウン』『テス』が有名ですが、実は
ぼくが一番好きなのは最初期のモノクロ作品『水の中のナイフ』62と『反撥』65の2本で、とり
わけ後者には強烈な印象を受けました(2001年7月14日池袋新文芸坐、『昼顔』と二本立
で鑑賞)。キャロル(カトリーヌ・ドヌーヴ)は姉のヘレンとアパートで二人暮らし。姉は毎日
のように恋人をアパートに連れ込みますが、神経質で潔癖症のキャロルは嫌悪感を抱き
ます。それが嵩じてくると、恋人コリンに接吻されただけで身の毛がよだち、後で口を漱がず
にはいられない程の男性嫌悪症に陥ります。姉が恋人と旅行に出かけると、キャロルは一人
アパートでぼんやり過ごすのですが、夜になると男に襲われる夢を見、それが生々しく記憶に
残ります。仕事も休みがちになって、部屋の壁が大きく避けたり、ぐにゃぐにゃになる幻覚を
見ます。そんな折コリンが訪ねてくると、妄想に取り憑かれている彼女は彼を殺した挙句、浴
槽に沈めてしまいます。キャロルは現実と妄想の境目がつかなくなり、家主が彼女に迫ってく
ると、逆に剃刀で彼を滅茶苦茶に切りつけ・・・。
ポランスキーは幼少の頃ナチに迫害された経験があり、∧被害者と孤独∨というテーマが常
に作品の根底にあるような気がします。オスカーを獲った『戦場のピアニスト』も、ぼくには感
動の大作と云うより地獄を彷徨う男の孤独感を残酷なまでに抉り出した作品と映りました。日
常生活に潜む邪悪な存在、そこから浮かび上がる恐怖感を、ニューロティックに、かつ被虐
的に描くのがポランスキーの真骨頂です。『ゴーストライター』はその恐怖感をポリティカル・サ
スペンスという枠組みで娯楽作に仕上げていたわけですが、ポランスキーという監督に興味
を持った人は、是非この『反撥』も観て下さい。ホラー顔負けの怖い映画です!
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